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読んだ本がすばらしかったので書いとこうと思った。

生活

読んだのはコレ。エリック・ホッファーという人のいわゆる格言集。

 格言集なんていうとハナっから読みたくなくなるものですが、この人のはちょっと普通のそれとは違ったのでした。
 1 ページ目の書き出しからしてぐっと来たのです。

情熱の大半には、自己からの逃避がひそんでいる。
何かを情熱的に追求する者は、すべて逃亡者に似た特徴を持っている。
 もう、こういう視点大好き。
前進への最良の刺激は、われわれが逃げ出さなければならない何かをもつことである。
 いやはや、ごもっとも。いわゆる夢とか希望とか、大義名分を叫んでのどがからからになるような、そんなコトは一つも書かれていないのです。

 エリック・ホッファーという人について紹介。

アメリカの社会哲学者・湾岸労働者。
 ニューヨークにドイツ系移民の子として生まれる。
 7 歳のとき失明し、15 歳のとき突然視力が回復。
 18 歳で天涯孤独になった後、ロサンゼルスに移りさまざまな職を転々とする。
 28 歳で自殺未遂。
 1941 年から 1967 年までサンフランシスコで湾岸労働者として働きながら、
 51 歳で処女作を発表。
 1964 年から 1972 年までカリフォルニア大学で政治学を講じる。
 つまりこの人、社会の底辺にずっと居た人なんですよね。普通の一般労働者なんです。学者でも社長でも、有名なスポーツ選手でもない。社会の底辺で働き、そこで見つめ考え学んだ事を素直にアフォリズムとしてアウトプットした集大成がこの本というわけです。

 もうちょっと引用しておきたい。

われわれは現在をごまかすことなくして、情熱的に未来を夢見ることはできない。
現実とはまったく別のものへの切望が、
われわれに現実とは異なる世界を垣間見せるのである。
 15 年くらい前でしょうか。世の男性がこぞって自らのアイデンティティを模索した時代がありました。村上隆(だったと思う)が、「アイデンティティを持たないと行けない、っていうアイデンティティの無さ」をすぱっと指摘して、あぁ、確かになぁ...。とうなずいた記憶があります。今とは異なる何かを追い求めるってことが、既に現在をごまかそうとする弱さに起因してるってことなんでしょな〜。

ペテン師が、軽信者を餌食にする冷笑家であるとはかぎらない。
ペテン師の素質を示すのは、軽信者自身なのだ。
自分こそが唯一の真理を保持していると信じる者は、
日常的な真理に無関心になりやすい。
自己欺瞞、軽信性、ペテンは、同じ穴の狢である。
鋭いです先生。

弱者にとって誰か他人と似ているということほど、大きな慰めがあるだろうか。
社会的に弱い人は、自らの弱さを「いわゆる普通の人と比較したときのマイナス分」を以て自己否定の材料にしている節があるように思います。だから普通以下であることにコンプレックスを感じたり。そういう人を慰めるために「君は○○と似ているね」と言い放ってしまうことは、一見すると非礼または残酷なのですが当人にとっては救いになったりする、と。

他人を非難するとき、実は自分を許そうとしていることがある。
自己正当化の必要性が大きいほど、われわれは偽善的になる。
非難と偽善が、その内面では実は共通しているという発見でした。

人類の驚異は、弱者の生き残りに由来する。
病弱者や障害者、老齢者に対する思いやりがなければ、
文化も文明も存在しなかっただろう。
部族の男たちが戦いに出ている間、
背後にとどまらざるをえなかった不具の戦士こそ、
最初の語り部であり、教師であり、職人であった。
老齢者と病弱者は、治癒と料理の技術の開発にあたった。
尊い賢人、発狂した呪医、癇癪症の予言者、盲目の吟遊詩人、
才知に長けたせむしや小びとなどが、そうした人びとである。
この視点は、長期的に人々をみつめていないと気づけないと思うんですよ。僕がもし、この本を読まずに社会を見つめていたとして、これに気づくことができたかどうか怪しい。気づけていたとしても、それは何十年も先になっていただろうと思うのです。この一節を読めただけでも、僕にとってこの本がじゅうぶんすぎる価値となりました。

われわれを放棄と破壊へと駆り立てる熱情は、
否定の習慣ではなく、主張の熱情である。
聖像破壊者は、往々にして偶像崇拝者より偶像崇拝的である。
こういう切れ味の鋭いのを読むと、「もしこの筆者が居る時代に twitter があったら良かったのに」と無い物ねだりをしてしまいます。同じ時代に生きてたら間違いなくフォローしてただろうなぁ、と。って、あれ?ところでこの人いつ死んだの??ってちょっと気になったのでぐぐりましたらば、1983 年 5 月 20 日に亡くなったとのこと。僕が生まれる 1 ヶ月前じゃないか!!!僕は生まれた瞬間から既にニアミスしてたのかっ!(何がだ)


 僕がこれから考えていこうと思っていたことの大半の結論が、この一冊にぎゅぎゅ〜っと詰まってるんですよ。何十年かけて考えを巡らせる予定だったものは、僕が生まれる前にびしっと書き記されていたのです。実は、いろいろ考えたいことがあって、そのために転職をしようと考えていたのですが、あからさまに僕が欲しいと思っていたものが手に入ってしまったためにその意思は薄れてしまいました。それくらいに、この本で語られている内容は濃いです。
 これまでいたく影響をうけた本は何冊かありますが、そのどれもが過激に僕自身を突き動かしてくれるようなものでした。この本は、それらとは全く異なる価値を提供してくれました。うまく言葉にできないけれど、とにかく末永く手元に置いておこうと思える一冊となりました。

※ なんで僕がこの本を読もうと思ったかというと、id:Hash たんの blog で紹介されていたからです。Hash たんすごいよアナタほんと尊敬するよ。
※ 僕が高校生のときに影響受けた本があるんだけど、いつかちゃんと記事にしたいなぁ。
※ 一カ所だけ、理解できなかった文があった。「不可測性もまた、単調になりうる。」っていう格言なんだけどどういう意味なんだろう...?